無痛分娩で子どもを産んだ話

もう1年前の話になるけれど、私は所謂『無痛分娩』で第一子を出産した。

周囲に意外と無痛分娩経験者がおらず、一方で「産むなら無痛かな」「2人目は無痛かな」と言っている友人は結構多いので、遅くなってしまったけど覚えている範囲で書き残しておこうと思う。

--

私が出産した病院での無痛分娩は、自然に陣痛が発生してから硬膜外麻酔によって痛みを緩和する『和痛』分娩とも呼ばれるものだった。

同じ硬膜外麻酔による無痛分娩を考えている人に向けて伝えたい情報をまとめると
①麻酔の処置は痛くなかった(人にも病院にもよるだろうけど)
尿道カテーテルも私は痛みがなかった
③費用は出産手当金が数万円返ってくる程度で収まった(病院によるだろうけど)

ちょっと補足します。

①麻酔処置痛くなかった
みなさんが一番知りたいのはこれじゃないだろうか。私はそうでした。
痛みが怖くて無痛分娩にしているので麻酔の痛みも当然怖い。
恥じることはありません、過去の私。声を大にして言う、全然痛くなかった!

事前に局所麻酔を入れる際に、予防接種と同程度のチクリ感があるくらい。
途中神経を触っているようなズクズク感が少しだけあったけど「あっ」と声を上げたらすぐに局所麻酔を追加してくれて、直後その感覚もなくなった。施術後は背中からカテーテルが出ているのだがそれがベッドに当たっても特に痛くはなかった。産後なんて触ってもよくわからないくらいだった。

尿道カテーテルも痛くなかった
施術後丸一日くらい下半身が動かなくなるので、尿道カテーテルをいれて採尿してもらうのだが、これも麻酔が効いてるおかげか痛くなかった。尿道カテーテルも始めての経験なので麻酔同様相当びびっていた。
(個人的には重要な情報だと思っているのだけどこんなに色々怖がっていたのは私だけなのだろうか)

③費用は出産手当内で収まった
恥ずかしながら私は妊娠するまで知らなかったのだが自治体から出産費用として結構お金がもらえる。余った分は自分に返ってくる(後から手続きをする)。たしか麻酔をしてもらったのは夜中なので時間外料金なども加算されていたはずだが、結構手元に返ってきた。たぶん入院時の個室代が追加されていたらギリギリ返ってこなかっただろう。

(余談だが私は当時抗生剤の耐性菌を保菌していて院内で隔離される必要があったために選択の余地なく個室、そして追加料金はかからなかった)(あと食事は質素な病院だった)

--

以下無痛分娩振り返りです。

前述の通り自然に来る陣痛を待って、自分でタイミングを決めて麻酔を入れてもらうタイプの無痛分娩だったのだが、結局麻酔をしたのは陣痛が始まって丸一日経ってからだった。

長かった。拷問じみていた。陣痛の合間に助産師さんに優しい言葉をかけられては泣いていた。人類が絶滅しなかったの凄いな……と太古昔の出産シーンにボンヤリ思いを馳せたりしていた。

麻酔を入れるタイミングについて「もうちょっと我慢した方がいい」派と「いつでも入れたらいい」派の助産師さんがおり、その間で気持ちが揺れていたが、最終的に痛みで身体が震えだした頃に「あんまり我慢してたら無痛にした意味ないで」という助産師さんの言葉に深く頷き、ついに麻酔をお願いした。

家族は退室し、準備が始まった。座って背中を丸めた状態で施術するので、ベッドに腰掛け布団を丸めたものを抱きかかえた。陣痛に耐えながらやっとの思いで正しい体勢をとって、背中を丸出しにして、背骨を指で探られ、冷たい消毒液をビシャビシャつけられた。

施術直前、麻酔医さんが緊張に身体をこわばらせる私の肩に手を置いて「僕の妻もこの前ここで無痛で産んでね〜」と話してくれて、安心してまた泣いた。

施術中の感覚については前述①の通りなのだが、冷たい液体が背中を流れるような感覚の直後、私のメンタルとフィジカルをボロボロに蝕んでいた"痛み"がスーっと引いていった時の、あの湧き出る”感謝”の気持ちを一生忘れないだろう。施術があまりに無痛だったので「何を恐れていたんだろう!案ずるより産むが易し、ってな!!」とまだ産んでもないのに思った。

そして麻酔のおかげで一眠りできたのだが(陣痛中寝れるのすごい)、その後は”効き”がまばらになり、左半身だけめちゃくちゃ痛い状態になったりして、カテーテルを入れ直したりしてもらったもののあまり効果がなく、子宮口全開になるまではそれなりに苦しんだように思う。吐いたりしたので。

ただ、いざ分娩!という時にはほとんど痛みはなかった。

隣の分娩室から「もうむりいいいいいい!!!!はやくううううううう!!!ああああああああ」と叫ぶ声が聞こえてきて(このとき院内で無痛なのは私だけだった)、私も今からこうなるのか?とビビったけど結局それから最後まで強い痛みはこなかった。

おしりにはさまったものをいきんで出したいような、便意に近いような感覚はあった。お腹の張りを示すモニターを見ながら、助産師さんの合図に合わせて冷静にいきんでいた。(助「はいもう一回〜」私『ハイ!ん〜〜〜〜〜っ、、あ、もう一回行けそうです。』「お、行ける〜?」みたいな)

さすがに、産まれる!って時は夢中でいきんで「出てきて!!」と叫んでいた。(たぶんアドレナリンがめっちゃ出ていた)
そして出てきてくれた時のあの感覚。海のようなにおい、ぬるっとして生あたたかい感触、赤紫の肌の色、むくんだような顔、かよわい四肢、ふぎゃあと出た産声、それらを受けての安堵感幸福感不安感疲労感その他……とにかく、痛みがなくてももちろん出産はエモーショナルで、一生忘れられない風景だった。

実はこの直後、子供は羊水混濁でNICUに入り(結果特に問題なかった)、私もそれが心配すぎて気分が悪くなってきたなと思ったら出血多量で(牛乳パックくらい)意識を失いかけた。勝手に安産型と思っていた自分だったが残念ながら「超安産でしたチャンチャン」とはならなかった。医療が発達した世界に生きていなければ命を落としていたかもしれない。無痛分娩=楽な分娩というわけではないのは当たり前だが、いつだって出産は命がけだということを身を以て知ってしまった。

(これを読む方の中にもいるかもしれないのだが、羊水混濁と私の大量出血を無痛分娩と因果関係があるように捉える人もいる。そんなことはないと言いたいところだが絶対違うとも私には言い切れない。ただ、因果関係がないとは言えないことと同等に、因果関係があるとも言えないだろう。調べれば何かデータは出てくるのかもしれないけどこれに関して今はまだ何か知りたい気持ちにはなれていない。気になる方がいたらすみません。)
(ただ、麻酔を入れず痛みで眠れないまま出産まで2日かかっていたとしたら無事でいられた気はしない、というのが私の感覚です。)

--

出産から一年経ったが、私は無痛を選んでよかったと今でも思う。そもそもなぜ無痛分娩にしたのかとか、無痛分娩がなかなか普及しない世の中に対して考えることなんかもあるけれど、長くなるのでとりあえず自分の出産を振り返るだけにしておこうと思う。

(ひとつだけ、分娩に異常があったからといって産後に『無痛にしたからじゃない?』『やっぱり怖いよね』と言う人がいるのは辛い。痛みを取り除いたことを後ろめたく思わせないでほしい。手術で後遺症がある人に「麻酔したからじゃない?」とは言わないだろう。)

より自然な分娩を望む人、より痛みの少ない分娩を望む人、いろいろな母親の希望が尊重される世の中になりますように。