口笛を聞いても振り向くな、と20年前の自分が言ったので

最近ダイエットと健康維持のために散歩をしている。始業前に家から20分ほど適当に歩いて折り返してくる。

 

きのうもそろそろ折り返すかというところで、別の道から合流した男性2人組が私の前を歩きはじめた。

追い越すかどうか迷うくらいの微妙なスピードだったが、ダイエット目的で歩いている私としてはスピードを落とすよりは上げたいところ。

ということで、20代くらいに見える横並びの男性2人組の脇を、えいっとすり抜け追い越した。

 

次の瞬間、背後から「ピュウッ」と口笛が聞こえた。イヤホンをしてポッドキャストを聞いていたけど、確かに聞こえた。

「振り向いたらダメだ!」

即座にそう思った。

スピードをどんどん上げて私は男性たちから距離を取った。しばらく振り向かなかったので、距離が空いてきているはず、という推測しかできなかったが。

 

その時はほぼ直感で「振り向いたらダメ」と判断したのだが、しばらく歩いてから「ああ彼らは私の"顔"を確認したかったのだ」と思った。

こんなさびれた国道沿いで1人歩いている女を朝っぱらからナンパするなんてことはない。ただ、今自分を抜かしていった茶髪のロングのパーマの女が、どんな顔か見てやろうと思ったのだ。なんだブスか〜、おばさんか〜、とお仲間と笑い合うところまで想像(妄想)できた。

もちろん私とは全く関係ない文脈で口笛を吹いた可能性だってあるが……あの慣れた感じの短い口笛が耳に残る。

 

中学生の時、田舎の駅前で田舎のヤンキーに前に回り込まれ「ないわ笑」と言われた記憶が蘇る。今回のように口笛やら声やらで気を引かれて振り向かされたこともあった。

 

おそらくこの経験のせいで、瞬時に「振り向いたらダメ」と思ったのだ。この経験がなかったら、口笛が自分に向けられていると考えもしなかったかもしれない。実際のところは私の考えている通りかどうかもわからないけど、20年前の自分が「決して振り向くな!」と言ったのだから仕方ない。

 

「残念、アラサーも過ぎたパンパンの顔のおばさんだよ」とおどけて余裕ぶりたい気持ちと、「絶対許さない、お前らにジャッジされてたまるか」という怒りが、しばらく頭の中をいったりきたりしていた。

いつのまにか怒りは中学時代のヤンキーたちにも向いていた。当時の自分はただただ恥ずかしくて悲しいだけだったな、と思い出す。怒ってもいいじゃないか。お前(私)はすごくかわいいんだから怒ってもいいんだよ。代わりに今怒ってあげようね!滅!!!

 

そろそろ折り返そうと思っていたはずなのにその日は随分遠くまで歩いてしまった。

イヤホンから流れるポッドキャストではジェーン・スー氏が「自分の中でいつまでも泣いてる小さな女の子(自分)を私たちはどうしたらいいんだろうね」というようなことを言っていた。

 

怒っても別に当時の自分はいなくはならない。ただ同じ思いをする女の子がいなくなればいいな、と思うのでこの怒りを表明しておこうと思う。国際女性デーだし。

女がジャッジされる側の性ではなくなったとき、口笛を聞いただけで「振り向くな!!」と叫ぶ中学生の自分はいなくなるのかもしれない。